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「歯がしみる」とは何か?

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「しみる」と表現されている状態とその原因はさまざまです。

 

①歯髄(歯の神経)はあらゆる刺激を「痛み」として認識する

まず「歯がしみる」とはどのような状態なのかを明確にする必要があります。そのため、歯の知覚についておさらいをしましょう。

ざっくりといえば、歯髄は基本的にあらゆる刺激を「痛み」として認識します。つまり、皮膚や舌では「冷たい」「熱い」「くすぐったい」「甘い」「酸っぱい」と感じる刺激を、歯髄は区別することができなず痛みとして認識することになります。

強い痛みは「痛い」となるため、弱めの痛みを「痛い」以外の言葉で表現したのが「しみる」であると考えられます。歯髄の cold testを自身で試してみると、歯髄は「冷たい」ではなく「弱い痛み」として認識することを実感できます。「しみる」は何らかの刺激によって惹起される反応であるため、その刺激が何であるかを把握することも大切です。

 

②しみるかしみないかは相対的な問題

歯髄には刺激を知覚する閾値があり、ある一定の強さ以下の刺激に対しては反応しません。歯髄は歯質や歯周組織によって口腔内と隔てられているため、外来刺激は歯髄に到達する前に減弱されます。同じ刺激であっても、遮断能力(歯肉の厚み・第二、第三象牙質の形成・象牙細管の閉塞状態・歯肉退縮・修復補綴の状態等)との差によって、歯髄に到達した時の強さが異なります。それが歯髄の感覚閾値を上回れば、「しみる」という反応になります。

 

③「歯がしみる」は必ずしも病気ではない

通常、「痛み」は身体に問題が起きたことを知らせるサインであり、「痛い」と感じた人は怪我や病気を疑います。そのため、歯が「しみた」場合、「歯が病的な状態になった」と心配するのは当然です。しかし、前途のように身体の他の部位では「熱い」や「冷たい」や「くすぐったい」と感じる刺激でも、歯髄は「痛い」と認識してしまいます。そのため、歯が「しみる」には、外的刺激に対する生活歯の正常な反応も含まれています。

「しみるのは病気ではなく、過大な刺激に対する歯髄の正常な反応の場合があります」

 

象牙質の知覚過敏とは何か?

①象牙質知覚過敏の定義

「歯がしみる」という訴えのなかから象牙質知覚過敏を選別するためには、まずその定義を明確にする必要があります。

 

象牙質知覚過敏の定義

温度・乾燥・擦過・浸透圧・化学的な刺激に対して、露出した象牙質で起きる短く鋭い痛みで、他の歯質の欠損や病態に起因しないもの

●温度 冷たいもの/熱いもの
●乾燥 エアー
●擦過 歯ブラシ、探針
●浸透圧・化学的な刺激 甘いもの、酸っぱいもの

Canadian Advisory Board Of Dentin Hypersensitivityによる象牙質知覚過敏の定義

 

②象牙質知覚過敏が起きる臨床状況

象牙質知覚過敏には「外来刺激に対して反応がある象牙質の露出面」の存在が必須です。象牙質の露出は、エナメル質の喪失もしくは歯肉退縮によって起きます。

 

〇象牙質を露出させるエナメル質の喪失

エナメル質には tooh wear(酸蝕。咬耗・摩耗)によって喪失します。咬耗では象牙質の露出は咬合接触点に限局しますが、酸蝕の要因が強いと、より広範囲で象牙質が露出します。

 

〇歯肉退縮による歯根象牙質の露出

歯肉退縮は歯根象牙質を露出させます。歯肉退縮の原因は2つあります。

①炎症性歯肉退縮(歯周炎に起因する歯肉退縮)

歯周炎と歯周治療は、歯肉退縮の主原因の1つです。歯周炎で付着の喪失と骨吸収が起きても、歯肉が腫脹していると根面の露出は抑制されます。しかし、歯周治療によって歯肉の炎症が改善すると、一気に歯肉退縮が進行し、象牙質知覚過敏が起きることが多いです。歯周炎に起因する歯肉退縮は、歯の全周で起きることが一般的です。歯肉の炎症・腫脹の消退は、歯肉の健康という観点からは当然よいことです。しかし、患者さんの立場からすると、治療を受けたことでそれまでなかった知覚過敏症状が出ることは不信・不満につながります。治療するまで口腔内に露出していなかった象牙質部分では、透明象牙質や第二・第三象牙質といった変化は起きていないと考えられます。そのため、歯周治療を始める前に歯肉退縮が起きることと、それにともない象牙質知覚過敏が起きる可能性が高いことを説明しておく必要があります。起きてしまってからいくらていねいんい説明したとしても、患者さんには言い訳にしか聞こえません。

 

②非炎症性歯肉退縮(薄いフェノタイプに起因する歯肉退縮)

歯周炎がなくても歯肉退縮する場合があり、その背景には薄いフェノタイプがあります。薄い歯肉の下では骨が裂開していることが多いです。病気で歯肉が薄くなったり骨が裂開したりしたわけではなく、生まれつきのものです。フェノタイプが薄い場合でも歯の萌出時から歯肉退縮してるわけではなく、主に外傷的なブラッシングによって歯肉退縮が起きます。骨が裂開しているのは通常唇頬側に限局して歯肉退縮が進行します。矯正治療で骨から歯根が逸脱した場合や、転位歯で起きる歯肉退縮も同じ原理です。ブラッシングに関連する要因で歯肉退縮を起こすのは歯磨剤ではなく歯ブラシであり、歯肉退縮を防ぐためには歯ブラシの使い方が重要になります。

また、歯肉退縮の原因にかかわらず、露出した象牙質が喪失すると歯髄腔までの距離が近くなるため、知覚過敏症状を重篤化させることが多いです。

 

③象牙質知覚過敏が起きやすい患者像

象牙質が露出すると必ず象牙質知覚過敏が起こるわけではありません。具体的には、象牙質知覚過敏は以下のような患者さんで発生しやすいです。

  • 几帳面だが、おそらく過剰な清掃習慣を有する。特に硬軟組織のフェノタイプが薄い場合→歯肉退縮による象牙質の露出
  • 歯周炎患者、得意歯周治療を受けた後→歯肉退縮による象牙質の露出
  • Tooth wearがある人→エナメル質喪失による象牙質の露出

 

象牙質知覚過敏の鑑別と対応

象牙質知覚過敏を正しく見分けることで、治療が効果を発揮します。

 

①象牙質知覚過敏の鑑別

この定義で「他の歯質欠損や病態に起因しないもの」と但し書きがついているのは、象牙質知覚過敏以外でも「しみる」という症状がでる状態はたくさんあるためです。ホワイトニング後の「しみる」は薬液が歯質に浸透して歯髄に到達するこことで、歯髄に炎症が起きることが原因とされています。この状態は上記の象牙質知覚過敏の定義とは異なるため、区別する必要があります。

 

②象牙質知覚過敏への対応

治療方法の種類

起きてしまった象牙質知覚過敏への対応は、基本的に露出象牙質に加わる外来刺激が歯髄へ伝わらなくすることになります。そのための方法論は①知覚過敏の鈍麻、②象牙細管の封鎖(凝固もしくは析出物による)、③物理的表面被覆

①知覚の鈍麻 歯磨剤、知覚過敏治療剤、レーザー
②凝固による象牙細管の封鎖 歯磨剤、知覚過敏治療剤、レーザー
③析出による象牙細管の封鎖 歯磨剤、知覚過敏治療剤
④物理的表面被覆 接着性レジン、修復、根面被覆

 

歯科衛生士 岡島

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